Mini
Theater6
〜ミッドナイト・ミニ劇場6〜
世界旅行 〜 アラウンド・ザ・ワールド 〜
アメリカ・ミズーリ州の北部に、ホープタウンという小さな田舎町がある。
春も間近に迫った三月初旬のある日、この町の郊外にある住宅街には、多くの町の住人が集まっていた。
人々はまだ冷たい風に頬を赤く染めながら、住宅街の中央を貫く広い道路の向こうをしきりと見つめている。町の中心街に向かう右方向を見ている人もあれば、反対側の、町外れの国道へ続く道の方向を伸び上がるようにして眺めている者もいる。どちらの方向からそれがやってくるのか、誰も知らないのだ。
町の住人が集うのは一軒の古い家の前だった。白いペンキで塗られたポーチの前には住宅街の隣人たちが立っていて、その奥に置かれた二つの揺り椅子に、小柄な老夫婦が座っている。彼らがこの家の住人、ジム・エバンスとマーサ・エバンスという。
この小さな町で起こった、小さな物語の主人公である。
マーサは暖かいひざ掛けの上に置いた手の下に、手紙を握り締めていた。
それは遠く旅に出た彼らの息子代わりの者から送られた、帰国を知らせる便りだった。
一年と数ヶ月前の、一昨年の十二月のことだった。
この日、庭の手入れをしようと家から出てきたジムは、いつもの庭の光景に足りないものがあることに気がついた。彼の趣味は庭仕事で、夫人のマーサの日課は花壇作りである。夫婦二人のこじんまりとした庭は、バラを絡ませた手作りのゲートや高低差のある植え込みがセンスよく配列され、メインストリートを車で走っていても目を引くような、近所では評判の品のよさであった。
ジムは庭の様子をひとつずつ点検し、花壇の植え込みの最上段に置いてあったカエルの置物がなくなっていることに気付いた。それは異国に嫁いだ娘からの贈り物で、古い手製の陶器だった。高さは約4インチ程度で、まるで人間のように椅子に腰掛けるような姿勢をしており、マーサの手作りの折りたたみ椅子にちょこんと腰掛け、軽く足を組んでいる。片手に異国風のキセルを持ち、軽く片目を細めた愛嬌のある表情をしており、道行く人々をのんびり眺めている風体であった。こういった種の動物を好まないマーサや近所の奥方たちにも人気があったため、花壇の中でも目立つ位置に据えていた置物だった。そのカエルが、座っていた椅子ごとなくなっていたのであった。
夜のうちに野良犬でも咥えていったのだろうかと、ジムは庭の茂みをくまなく見て回ったが、カエルの姿は見当たらなかった。住宅街の街路樹や道路にも見つからず、ジムはがっかりして、マーサが悲しむことだろうと思った。
予想通り、マーサも娘からのプレゼントが消えてしまったことをいたく悲しんだ。近所の人は泥棒が盗んでいったのではないかと言ったが、置物は異国製であるということを除けば、それほど高価なものではない。庭でも家の中でも、カエル以外になくなったものはなく、たまたま通りがかったいたずらな少年たちが持ち去ったのだろうと、夫婦は話し合って諦めることにした。
それから数日が経過した年の暮れ、エバンス夫妻の元に一通の手紙が舞い込んだ。
遠く海外から届いたエア・メイルで、差出人の名前は「トムサ」とだけ、書かれていた。記憶にない名前だったが、宛名は間違いなく夫妻宛である。ジムはそれを開封してみて、中身を見ると驚いてマーサを呼んだ。
封筒の中には英語で書かれた便箋と共に、数枚の写真が入っていた。どこか南国の青い空と海を背景に、白い砂浜にいるのは、数週間前、庭からいなくなったカエルだったのだ。
マーサの作った手作り椅子にゆったりと腰を掛け、傍らのテーブルにはトロピカルジュースの入ったグラスが置かれている。鮮やかな赤い花がグラスに飾られ、砂の上に落ちた貝殻の上に足を乗せたカエルは、いつもより上向きになっているためか、ひどく嬉しそうに笑っているような表情をしていた。その他にも数点、夕暮れの海を眺めている姿や、リゾートホテルの一室らしい、白いカーテンが翻る窓辺から広がる海を眺めているカエルの後ろ姿の写真が同封されていた。
ホテルの名前の入った薄い水色の便箋には、次のように書かれていた。
『親愛なるジムとマーサへ。
勝手に家を飛び出してしまってごめんなさい。二人が作ってくれた素敵な庭はとても居心地がよかったのだけど、僕はもっと広い世界を旅してみたいと、ずっと思っていたのです。
そして、あの夜、神様が僕にチャンスをくれました。
僕は今、南の島に来ています。ここはとても暖かくて気候がよくて、人々は親切です。(新しい水着も買ったのです。海で泳ぐのはちょっと海水が塩辛くて、僕の肌がヒリヒリしますけど、広くて快適ですね)
昨日は海に潜って色とりどりの魚を見ました。(同封の写真を見てください)
明日は無人島にわたって、ヤシガニと木登りの競争をしたいと思っています。
僕は元気です。心配しないで下さい。またお便りをします。
あなたたちの息子 トムサより』
「トムサ!」とマーサは叫んだ。
「あなた、トムサはあのカエルに書かれていた文字よ。トムサって名前だったんだわ」
マーサはカエルの椅子を作る際、置き物をひっくり返して、お尻の下に小さく書かれていた文字を見たことがあったのだという。ジムはカエルのお尻を見たことがなかったから、その名前に見覚えがなかったのだろう。
「一体誰が、トムサを連れて行ったんだ?」と彼は呟いた。
カエルの置き物が庭から消えてしまい、はるか南の島でバカンスを楽しんでいるという手紙が届いたのだ。夫婦は不思議に思い、念のため、海外に住む一人娘に電話をかけて問うてみたが、娘は先年生まれた双子の子育てに忙しく暮らしていた。しばらくアメリカに戻ったことはないと言うことだったし、もちろん、カエルの置き物がいなくなった話も知らなかった。
「盗まれちゃったの? 今度また、別のを買って送るわ」と遠い電話の向こうで娘が言った。
結局、カエルがどうしていなくなってしまい、突然手紙が送られてきたのかはわからないままだった。しかし、それから二週間ほどたった後、再びトムサからの手紙は届いたのだ。
コアラがしがみついた枝の上にちょいと腰をかけ、目を細めたカエルが写真に納まっている。世界一巨大と言われる大岩をはるか遠景に望みながら、手作りらしいカウボーイ風の皮帽子をかぶり、得意そうに笑っている。オーストラリアという、夫婦が映像や雑誌の世界でしか知らない国で見たこと体験したことを、柔らかい文章で細かく説明された手紙も入っていた。それには前回と同じように、どこかのホテルの名の入った便箋が使用されていた。
一体誰がカエルの名を借りて送ってきているのだろうかと、ジムは近隣の人々に聞いて回った。海外を長く旅行をしている酔狂な知り合いのサプライズだろうと、思いつく限りの相手先を当たってみたのだが、それらしい人物にはたどり着けなかった。
首をかしげるジムに、マーサは言った。
「見てちょうだい、ジム。トムサはとても楽しそうに笑っているじゃない」
強い太陽光の下にいるトムサの写真は、二人が見慣れていた、庭に置かれていた時の表情とは異なっているように見える。口の端がむずむずして、今にも歌い出しそうな愉快さを滲ませていた。マーサはしみじみと写真を眺め、呟いた。
「いつも庭にじっとしていて、あの子は退屈だったのかもしれないわね。こうして元気に旅をしているなら、心配いらないってことじゃないの」
妻の言葉に、ジムは白くなった鼻の下の髭を軽く撫でながら、遠く旅に出た息子の姿でも見るように、写真を見直した。
「……そうだな。まぁ、手紙が来ているのだから、心配する必要はないということなのだろうな」と、彼も頷いたのだった。
それから、月に二、三度の割合で、カエルのトムサから手紙が届くようになった。防寒コート姿で、南極のペンギンに踏まれている写真が届くこともあれば、ノートルダム寺院をバックに笑っている写真もあった。ローマの「真実の口」に頭を突っ込んでいたり、万里の長城に腰掛けて、ハーモニカを口に咥えていたこともある。言葉通り、彼は世界中を旅しているようで、夫婦が行ったこともない国を転々としながら、ユーモラスな写真と手紙を送って寄越した。トムサが次にはどこの国の名所を訪ねているのだろうと、ジムとマーサは手紙を楽しみに待つようになった。
やがてこの話は近所の人に知れわたり、小さな住宅街の小さな噂になった。いつしか、町の新聞社の何某かの耳にも届き、地元の新聞記者が取材にも訪れるようになった。彼らはトムサを連れて旅をしている人物が誰なのかをしきりに知りたがったが、ジムたちにも一向に見当がつかなかった。記者たちは親類や近所の人々、ジムのハイスクール時代の旧友たちまで訪ねて探したのだが、トムサの旅に同行していると思われる人物はいない。
結局、「カエルの足長おじさん」という見出しで、ホープタウンの新聞の小さな記事として紹介されたこの話は、さらに地元のラジオ局やテレビ番組でも取り上げられ、話題となった。新しい手紙が届くたびに記者たちは訪れ、夫婦と共にトムサの写真と手紙を見た。いつの間にか、彼らもカエルの世界旅行を楽しんでいるようだった。ジムとマーサも次々にやってくる人々に快く写真を見せ、笑顔で語り合った。静かで訪れる人もいなかった住宅街は、にわかに賑やかな雰囲気を帯びるようになっていた。
マーサの手作りの折り畳み椅子を背中に担いで、カエルは世界中を冒険して歩く。小さな陶製のカエルの置物は、ひっそりと暮らしていた老夫婦だけでなく、町に住む多くの人に、夢や感動や、笑顔を与えていたのだった。
そうして一年を過ぎ、カエルが庭からいなくなって二度目の春が訪れようとしていた二月頃、トムサから新しい手紙が届いた。
いつも通り、たくさんの写真や冒険の様子を語った手紙の他に、別の一枚の便箋が同封されていた。
『僕の日々はとても楽しく、刺激に満ちていて、たくさんのことを経験しました。
でも、そろそろ僕はジムとマーサに会いたくなりました。
あのきれいなバラのアーチで、去年もピンクのバラはきれいに咲いたことでしょう。足元でマーサが植えてくれた、色とりどりの花は毎年違う顔を見せてくれていましたが、去年はちっとも見ることができませんでした。
そろそろそちらでは春の準備にかかっているんでしょうね。
思えば、僕の居場所だった庭はとても素敵なところでした。
懐かしくなってきたので、僕はもうじき、この旅を終えてうちに帰ろうと思います。
(椅子のシートがすっかり日に焼けて色褪せてしまったのも気になるし、何より僕のお尻の下のところに穴が開いているんです!)
春になる前には帰ります。
あなたたちの息子 トムサより』
「トムサが帰ってくる」とマーサは言った。
「あなた、あの子が私たちの家へ帰ってくるんですって。うちの庭が恋しいそうよ」
「そうか、そうか」とジムも嬉しそうに頷いた。
「花壇の土を新しくして、種を蒔いておかないとな。帰ってきたら、たくさんの花の芽が出ていると、きっとあの子も喜ぶよ。新しい椅子も作ってやった方がいいな?」
二人はカエルの帰国を喜び、周囲の人々にも伝えた。不思議なカエルの置物が帰ってくると知って、小さな町はいっそうの話題に満ち溢れた。人々の関心はもちろん、カエルを連れて世界を旅した謎の人物、「足長おじさん」の正体であった。カエルの写真にも手紙にも、旅の同行者については一度も語られてはいない。カエルが帰ってくる時、ついにその人物も姿を現わすだろう。町の人はそう噂をして楽しみに待ち、記者たちは徹夜でエバンス夫妻の家の周辺に張り込む準備を進めていた。
やがて、約束の三月十五日がきた。この日の午後、トムサが帰ってくるという。
エバンス夫婦の家の前には、話題のカエルを一目見ようと大勢の街の人々が押しかけ、またカエルを連れ去った人物を見届けようと、多くの報道陣が詰めかけていた。海外を旅していたカエルの同行者は、地元でこのような大騒動になっているとは思いもよらないだろう。古い家の前を通るのがためらわれるほどの賑わいであった。ジムはひそかに、カエルの持ち主が人に知られることを嫌って、カエルを連れ帰ることをやめてしまうのではないかと内心で危惧していたほどだった。
「来たぞ!」と誰かが叫んだ。
鉛色の雲が広がる空の下、並木通りの向こうから、一台の白い車が走ってきているのが見えた。この街ではほとんど見ることのない白いリムジンである。雪のような車体は国旗をなびかせながらゆっくりと住宅街のメインストリートを通り抜け、パレードの終点にたどり着いたかのように、人々が集う小さな家の前で静かに停車した。
人々が息を呑んで注視する中、運転席のドアが開く。降りてきたのは初老の男だった。仕立てのいいスーツを身につけ、ドライバー用の帽子を被っている。彼は落ち着いた様子で目の前に立っていた記者の一人に、「こちらはエバンス様のお宅でよろしいですか」と尋ねた。
後部席へ回ってドアが開かれると、座席の真ん中に収まっていたのは―― 一匹のカエルの置物だった。
ざわめく周囲の人々を気にする様子もなく、運転手はうやうやしくカエルを抱え上げると、アーチをくぐって白いポーチの階段を上がった。椅子から立ち上がっていたジムとマーサの二人の前に、両手に乗せたカエルを差し出す。
「トムサ様よりのご依頼で、エバンス夫妻の元へお届けにあがりました」
「誰ですって?」と尋ねたトムの声は掠れていた。
運転手はにっこりと笑った。
「トムサ様です。ご自宅にお戻りになるために私どもの車をご利用いただきました」
小さなカエルは、ジムの手に乗り換えられた。運転手は軽く頭を下げると、「お荷物をお預かりしております」と言って車に戻っていった。そしてトランクに積まれていた、たくさんの紙袋をポーチまで運び始めたのである。
あちこちの国で買い集めたらしい、色鮮やかな箱やお菓子や雑貨などが袋の中には詰め込まれているようだった。ジムとマーサは呆気にとられて、ポーチの上に積み上げられていく荷物を眺めていた。
ようやく、記者の一人が尋ねた。
「すみません、このカエルをここまで乗せるよう頼んだのはどなたですか?」
「トムサ様と伺いました」
「どんな人だったのですか?」
その質問に、運転手は笑ってポーチの方を軽く示して答えた。
「ですから、先ほどの方でいらっしゃいますよ」
空っぽになった座席の扉が閉められ、ざわめく人々の群れを後にして、白いリムジンはゆっくりと動き出した。空港からやってきたらしい高級車は届け物を終えて、また大きな町へと戻っていくのだ。記者たちはしばらく呆然としていたが、慌ててシャッターを切った。彼らは「カエルの足長おじさん」の素顔を見た唯一の運転手を写真に収めるだけで精一杯だった。
ジムとマーサはポーチに立ったまま、白いリムジンが遠ざかっていくのを眺めていた。おそらく、あのような車がこの通りを走って彼らのうちに来ることなど二度とないだろう、と思いながら。
彼らの手の中に戻ったトムサは、少し色あせているようにも見えた。紙袋のひとつに押し込まれていた愛用の手作り椅子は、手紙に書いてあったとおり、布の部分に穴が開いていて、ずいぶん色褪せて汚れていた。しかしトムサは、懐かしい愛嬌のある顔で目を細め、二人を見上げている。まるで、喉の奥で嬉しそうに立てている笑い声が聞こえてくるように、生き生きとした表情をしていた。
二人の周りにもう一度人々が集まり、写真でしか見たことのないトムサを物珍しそうに眺めた。もちろん、このカエルの置物がジムの手の上で動いたり喋ったりすることはない。
トムサの冒険旅行はこうして終わったが、エバンス夫妻はそれからもしばらく忙しかった。大勢の人がトムサや、トムサが持ち帰った海外の土産を見るためにひっきりなしに訪れてきたのだ。二人は写真や土産物を皆が見て回れるように、自宅の一室を開放し、きれいに並べて展示した。それはやがて訪れる人々がいなくなってからも、夫婦の目を楽しませ、度々二人だけの間でも話題になった。
トムサは相変わらず、何も言わない。
新しい清潔な布を貼られた、古ぼけた椅子に座り、今日も花壇のいつもの場所で、きれいに手入れされた庭を目を細めて眺めているだけだった。
* * * *
………
「おーい、準備できたか?」
「まだよ、カニが逃げちゃうんだもの」
「カニじゃ、じっとしてねぇやなぁ。トムサとはわけがちがわぁ。おいルパン、シャッターチャンス、逃すなよォ」
「オーケイ、まかせとけ。五右衛門、もうちっとレフ版、右に傾けてくれ。角度三十度ってとこかな。そうそう、そこでストップ! よし不二子、カニを放してくれ」
砂の上に腹ばいになったルパンが、低めいっぱいまで高さを落とした三脚に乗せた一眼レフカメラのシャッターを高速で切った。放たれたカニは緑色のカエルの頭によじ登り、横っ飛びに砂浜に飛び降りると、大急ぎで逃げていった。
「よし、いいもんが撮れたぞ。爺さんたちが喜ぶだろうよ」
ルパンは嬉しそうにニシシと笑う。海辺の白い砂浜に立って、不二子と次元は水着姿のまま、あきれたように顔を見合わせた。五右衛門はと言えば、相変わらずの袴姿で銀色のレフ版をむっつりと掲げている。
「ねぇルパン、いつまでこのカエルを連れ歩くの?」
不二子が尋ねると、ルパンは「そりゃあ、世界一周が終わるまでさ」と答えた。
「カエルの持ち主の爺さんたちにな、世界一周するって手紙に書いちまったもん。まだインドにもアフリカにも行ってねぇだろ」
「最近、仕事がなかったからでしょ。大体、なんでこんなカエルが気に入っちゃったわけ?」
首をすくめる不二子に、次元が代わって答えた。
「仕方ねぇさ。下見に出かけた街で、たまたま通りがかった家の庭先にこいつが座ってたんだよ」
「そ。世界を旅したいってな、俺に訴えかけてきたのさ。だから旅に連れ出してやろうと、庭からちょいといただいちゃったってワケ」
ルパンは悪びれる様子もなく笑う。ちゃんと家の持ち主であるエバンス夫妻のことも調べて、違う国へ訪れるたびに写真と手紙を書いて、彼らの元へ便りを送っている。
「下らん。お主らの酔狂な遊びのために、拙者は毎回裁縫だの小道具作りだのをせねばならんのか」
五右衛門が憮然と呟く。カエルの頭にぴったりの麦わら帽子を編んだのも、毛皮を使ってコートを作ってやったのも、手先の器用なこの侍である。
「まぁいいじゃねぇの。地元の新聞じゃ、俺たちはカエルの足長おじさんだなんて紹介されてるらしいぜ」
「置物のカエルに無駄な援助を施してやるなんざ、お前ぇくらいなもんだろうよ」
次元はカエルを拾い上げた。逃げたカニに椅子ごと倒され、砂まみれになったカエルの砂を払ってやる。大の大人が四人がかりで人形遊びなんて、と最初は文句を言っていた自称・硬派なガンマンだが、結局、カエルの面倒見が一番いいのも彼である。無骨な手で陶器の置物を丁寧に扱っている。
「そうだな。来年の春には土産いっぱい抱えて、爺さんたちのところに帰るか? トムサ」
パラソルの下に置かれた白いテーブルの上に移動したトムサに向かい、ルパンが尋ねた。
涼しい日陰に入れてもらったトムサは、少し首をかしげ、目を細めている。
――悪くないね。
その飄々として風来坊然とした表情は、いつものようにそんな風に、ただ笑っているかのようだった。
<完>
ミッドナイトではないですが、一応仮想空間物語。
この物語はアメリカで実際にあった話が元になっています。
カエルの置物の世界旅行と、リムジンで帰ってきたという意外なオチ。
結局、その人物が誰かはわからないままだったようです。
もう十年以上は前、TVでこの実話が紹介されていたのを見て、
「一体どんな人がそんな粋な遊びをしたんだろう」と、印象に残ったのでした。
昔、書き留めていた小説のネタ帳からこの話を見つけた時、
「そうか、ルパンたちだったのか!」と長年の疑問が氷解したような気がしましたよ( ^ ^ )
数年前、「アメリ」という仏映画でもこれによく似たエピソードが使われてました。
この映画では、世界旅行をしていたのはフライトアテンダントさんでした。
それじゃフツー過ぎてつまらないじゃん…ねぇ…;
でも、旅行にお気に入りの人形を連れ歩いて記念写真を撮るなんて
そんな旅もしてみたい気はしますよねぇ…v
08/05/03 K七雲