Mini Theater
   
〜ミッドナイト・ミニ劇場〜

Accident

 

鍵穴に鍵が差し込まれる音がする。
カチリと音がして、扉が開かれた。暗闇の中にまばゆい光の筋が差し込む。
その拍子に、扉にもたれかかっていたものが崩れ落ち、背中に大荷物を背負っていた次元は、その荷物に引きずられるようにして後ろ向きに体勢を崩してしまった。
「うわっ……!」
「次元!?」
慌てて手を伸ばしたが、遅かった。柔らかい布の上を滑るようにして、次元の身体は扉の向こうへ転がり出て、はるか下方へと勢いよく落下していった――。


「次元、大丈夫か?」
「イテテッ……大丈夫じゃ…ねェよ…」
右肩からざっくりと落ちてしまった右腕。次元は右肩を抑えてうずくまっている。
「見せてみろ」
傷口を調べて、ルパンは軽く息をついた。
「あ〜……こりゃ…だめかなぁ」
「何がだよ」
次元が唸った。
「お前、俺の右腕、拾ってきたんだろうな」
「モッチロンよ」と、ルパンは回収してきた次元の右腕を懐から取り出す。
「お前が持ってた銃もちゃんと探して持ってきたさ。でもこの銃、もうお前には持てねェだろ」
かざした銃が蛍光灯の光を弾いて白く光る。次元は顔を上げ、まぶしそうに目を細めて銃を見上げた。
「別に左手で持ってりゃ文句はねぇだろ」
「そういうわけにはいかねぇのよ」
ルパンはしゃがみこんだ両膝の上に頬杖をついてため息をついた。
「右腕がないお前を連れて歩いてちゃ、カタギの皆様に好奇の目で見られっちまう」
「お前……」
次元は呆然とルパンを見返した。
「……右腕のない俺はお払い箱ってわけか?」
「そんなこと言ってないっしょ、次元ちゃん。今までいっぱい働いてくれたんだから、ちゃあんと慰労してあげるって」
「いらねぇよ。お前ぇに世話になるほど落ちぶれちゃいねえや」
次元はフンと鼻を鳴らした。
「あらら。そーんなこと言っちゃって、なんでそんなに可愛げがないかな?」
「俺に可愛げなんてものがあるとは知らなかったな」
ルパンはこっそりと笑う。知らないのは本人ばかりのようだ。


不機嫌にふてくされている相棒の横顔を、ルパンはしげしげと観察した。
形よく尖った鼻梁線はわずかにうつむいている。くたびれた黒い帽子と黒い衣装はあちこちが擦り切れ、色が薄くなり、風雨を越えて自分とここまできた年季を感じさせていた。
ルパンの手にある彼の銃も、染みついた硝煙とほんの微かな汗の匂いに包まれ、硬質でありながらしっとりと手に馴染む。
この銃を、次元の右手は握れない。むろん彼の言うとおり、左手で銃を撃つことは出来るだろうし、それで自分の足手まといになるような男ではないことも、ルパンは十分承知していた。
しかし、次元大介がもともと隻腕の男であるならまだしも、少し前までは五体満足の相棒だったのだ。
できればずっと共にありたいが、さすがに腕が落ちてしまっては、周囲の人の目を気にせざるを得ないだろう。
というより、そこまでして彼を無理に連れ歩くことに、多少の罪悪感を感じる。
元々右腕を失ったきっかけも、己の彼の扱いに問題があったと考えればなおさらだ。

 ――右腕がなくったって、俺の相棒の役目は充分果たせると思うけっどもな。

心中で呟くルパンの声が聞こえたかのように、次元がぼそりと言った。
「……お前、今度は別の『次元大介』を相棒にしようっていうんだな?」
「人聞きが悪いな。クローンを作るってわけじゃねんだぜ? おんなじお前自身じゃねぇの」
苦笑しつつ、精一杯気の毒そうに言ってみせるルパンに、次元は立ち上がって怒り出した。
「クローンよりタチが悪ィだろ! 俺と同じ顔がうじゃうじゃあったら、気持ち悪くてしょうがねぇだろが!」
「ンなこと言ったって、俺、次元を集めるの趣味だもん」
「俺はお前のコレクションじゃねぇって言ってるだろ。第一、俺が立ってるか座ってるかくれぇの違いじゃねェか! 集めてどうすんだ」
残った左腕で握り拳を作り、抗議するかのように振り回す次元に、ルパンは困ったように肩をすくめた。
 ……だったらますます問題はないだろうに。
そうは思うが、まぁ誰だってコレクションされるのは嬉しくはないだろうな、と思うので、口に出すのは止めておいた。


自分の手の中にある次元の右腕。
アジトに帰ったら、元通り次元の右肩に取りつけてやるつもりだった。
けれど、一度外れた彼の細い腕が、今後、どんな衝撃にも耐えられるかどうかはわからない。
気がつくと再び落とした右腕が、今度は二度と見つからないかもしれないと思えば、やはりこれ以上の無理はさせられないだろう。

だからさぁ…次元。

アジトの片隅で、ゆっくり養生してもらいたいんだけどね。

心の中で呟くと、ルパンは次元の右腕をそっとポケットにしまったのだった。

<完>

 

 

……というわけで、携帯電話のストラップにぶら下げていた次元の腕が取れてしまいました! Shock!!
ええ、会社のロッカーの中に入れていたんです。ドアを開けて鞄を出そうとした時、ケータイごと落ちちゃったんですよ〜(涙)
あちこち色が剥げた次元をじっくりと眺めていて、上のような妄想をしてしまったわけです。ルパンは作者視点なので、ちょっと性格ヘンですが、見逃してください(笑)。

ちなみにこれは「カリ城」の対戦車砲を持っている次元(多分)。実はマグナムじゃなかったんですね〜。 もうじき、マグナムを持っているもう一人の次元ストラップがぶら下がることになるかもしれません。やっぱり片腕次元をこのままぶら下げているのは不憫すぎますからね…( ^ ^ )

 

 

モドル