相棒学概論


相棒というのは、駕籠(かご)を担ぐ時に棒の反対側をもってくれる人のことだそうです。
と、いう語源は置いておいて。
今回は、漫画・小説・映画などの創作物について、物語の構造としての観点から登場人物の性格づけや関係性を検証し、体系的なアプローチを試みながら、ルパンワールドの「相棒観」について触れてみたいと思う。
と、書くとなんか難しいコト言ってるみたいだが、要は物語を作るのが趣味なので、ストーリーを分解して製作者側視点でキャラクターの性質などを分析してみてやろうという、自分勝手な試み。「ルパン」についてというよりは一般的な「コンビ」について相対的・統計的に考えているので、興味のない方には何の話だかよくわからない展開になる可能性がある。さらに、「ルパン」については好ましくない表現もあると思われるので、「ルジっこ絶対主義!」の方はすっ飛ばすことをオススメしておく。

個人的に、昔っから、男同士の友情みたいな関係を描いた漫画にハマリやすい傾向がある。
親友、幼馴染み、仲間、チームメイト、相方、相棒、、バディ、パートナー…まぁ、なんでもいいんだけど。
そういう人間は稀少ではないと思われるが、Kの場合はけっこう偏っているかもしれない。主には少年誌のスポーツ漫画だ。主人公とライバル、という関係よりは、主人公とその友達、というパターンが好きなことが多い。サッカーやバスケットならFWコンビ、野球ならバッテリー、バレーならセッターとアタッカー、テニスならダブルス(…は、なかったか)、プロレスならタッグパートナー…といった感じに、これまでハマったものは傾向がわりと徹底している。
スポーツ漫画は友達・仲間・先輩後輩が多いが、その他の漫画・小説・映画などにおいても、兄弟、父子、従兄弟、主従関係などなど、ツボに嵌まる「男同士の関係」であればさほどこだわりもなく好きになる。ただし、そういうものなら無条件でハマるわけでもない。特に常識範囲の関係である方が好みであり、オリジナル作品として、レンアイなどの特殊な関係を扱うものはストライクゾーンではないようだ。これはそういう方々に偏見があるということではなく、単純に好みの問題と考えていただきたい。(妄想の二次創作の場合はまた別の話^ ^ )

そんなコンビ好き歴○○年のKが勝手に思っていることに、コンビにはいくつかのパターンがあるだろう。、ざっと思いつくままに並べ立てて、分類してみようかとある日突然思い立った。とりあえず臨時に、主人公と、主人公と行動を共にする相手の二人をコンビという言葉で定義づけておく。
コンビが同年代の男二人である場合、彼らの関係は大体、以下のような感じだろうか。

【1】対照的な容姿・性格型
立場として対等であることがほとんど。容姿として視覚的にわかりやすいものの代表としては、アメリカ映画の刑事モノなどの場合で、白人と黒人のコンビなどを思い浮かべてみるといいだろう。狙ったように異なった外観をしている。対極的な容姿としては、他にノッポとチビ、男性的なマッチョと長髪の中性的美形、など、デコボココンビになりやすい。
そして、外見が違えば、正比例するように性格も両極端であることが多い。例えば白人・黒人コンビの場合、白人が熱血突撃系の主人公なら黒人はクールなインテリ男だし、黒人が陽気なおしゃべり野郎なら白人は気難しい無口なタイプだったりする。対照的ゆえにケンカが絶えず、最初はお互い気に入らない者同士であるのがお約束。

【2】優劣決定型
はっきりとした主従関係(王と家来など)ということもあるが、かっこいい主人公と、能力的に明らかに劣っているその相棒、という構図で描かれることが多い関係。
代表的なのは落ち着きのないお調子者で、たいてい主人公を苦境に追い込むきっかけを作るトラブルメーカー。あるいは善良で気弱で、アメリカの刑事ものでは主役の敵方にあっさり殺されて、主人公が復讐に燃える…なんてパターンも少なくない。
推理小説で、名探偵と助手の関係もこれに該当するところだろうか。すべて先読む完全無欠の名探偵に対し、ちょっとお間抜けで、涙もろくてお人好しなパートナー。犯罪者に騙されたり恋に落ちたりすることも多く、名探偵より人間的に描かれる。で、裏切られてしょんぼりしているのをさりげなく名探偵が慰めることで、探偵役にも人間味が出てくるのが特徴……かな?
こういう関係は、単純に主人公の引き立て役になるだけのこともあるが、コミカルだったり人情的だったりで、ストーリー全体の中でワンポイントの隠し味になる傾向がある。シリアスなドラマの中で観客を和ませたり親近感を感じさせたり、あるいは主人公が単独では危機に陥らないほど強い場合は、足を引っ張る役を買ってでたりと、これはこれで無視できない存在と言えるだろう。

【3】主人公サポート型
主人公に対し、性格も役割も正反対とはいえない位置にある、微妙なサポート的役割の相手役というのもいる。
能力的には主役にひけはとらず、しかしなぜか目立たない。主人公のよき理解者で、コンビならたいていここぞという時に絶妙のパスを送り、主役にシュートを決めさせる「縁の下の力持ち」に徹していることが多い。


そのほかにもたくさんあるだろうが、自分の知っている物語を手当たり次第引っ張り出して仕分けするとそんなところだろうか。分類にもいろいろな視点があるし、K自身もそんなことを長年研究しているわけではないから、どれをどこの分類に入れるかについても賛否両論はあると思われる。しかし、どうせ誰もそんなことを真面目に学問したりはしないだろうから、独断と偏見で斬りまくってみる(笑)。

物語の醍醐味のひとつは、登場人物同士の対比でもある、と思う。例えば男と女。どこまでいっても平行線、すれ違ったり愛し合ったり、憎んでみたり恋の駆け引きをしあったり。男と女は最初から最後まで対極の位置にある。「異性」は古来より、一番近くて、一番遠い対比の存在なのだ。永遠のテーマであるだけに、どれほど使い古されても観客も飽きると言うことがないらしい。
また、正義の味方と悪の組織、というのも対極にある価値観のぶつかり合いだろう。もちろんスポーツで勝負したり、戦争をしたり会社の利権争いをするのも同様だ。かくして登場人物たちは、対立し、戦い、時に絶望したりして、最終的に和解や別離や勝敗といった結論へ導かれるのである。
逆に考えると、登場人物はぶつかりあってドラマを起こす。最初から立ち位置が同じで、共通の目的に向かう同性の「仲間」というのは、残念ながら対立することが少ない。なにしろ似た者同士だから、劇的なドラマなんてそうそう生じようはずもないわけで、創作者視点で言うと、価値観が同じキャラクターなんて登場する意味がないのである。
だから、男たちの性格は対極にある方が面白いし、わかりやすいし、物語の起伏にも役立つ。共通点もなさそうな対照的な二人がなぜかコンビを組んでいることが多いのは、物語の上である意味「必然」ともいえるわけである。

で、対照的な性格、と一言で言ってもいろいろある。一番多いのは熱血タイプと冷静沈着タイプだろう。暴走キャラとそれを止めるストッパー役と、きれいに役割分担されているコンビである。その他にも、飛び抜けた能力を持つ孤独な主人公とボクトツな癒し系の相棒、いつもくじける弱気な頑張り屋とそれを強気で叱り飛ばす励まし役の友人、はたまたアウトローと真面目な生徒会長etc.、数えていけばキリがない。
もちろん、必ずしも正反対の性格というわけではなく、それぞれの個性が際立っていて、考え方や立ち位置が明確に異なるコンビ、という場合だってある。(これを別の分類とするかは、現在のところは保留としておきたい) 本来、上に挙げた【2】の「優劣決定型コンビ」も、キャラの性格の違いがはっきりしているという点では、【1】と同じようなものなのかもしれない。しかし「登場人物にバリエーションを与えて対比させる」というのが主要な目的と、「主役を際立たせるために他のランクを下げる」ものはちょっと違う気がするので、あえて分けてみた。
では、【3】の「主人公サポート役としての相棒」はどうか。
主役をさらに活躍させるための下からの底上げ型、という意味では【2】に近いのだが、固有の潜在能力が高く、主人公の邪魔にならないという点で、少々毛色が異なる気がして別のものとしている。実は「ルパン三世」におけるルパンと次元の関係も、このパターンに属するとKは考えているのだが。(他に、映画「オーシャンズ11」のブラッド・ピット、漫画「キャプテン翼」の岬 太郎など←ファンだったんだね/笑)

このタイプの相棒は、どうも実体がつかめない。
傾向として、強烈な「個」が感じられない。ふわふわとした、妙に掴みどころのないキャラであることが多い。単独で活躍することがあまりなく、主人公のアシストをすることで満足しているような、名誉欲のない連中だ。他の仲間からさりげなく慕われていて、すごい実力を持っているのに、なぜかトップスターではない。一人で生きていくことに何の問題もなさそうなのに、主役のサポーターに徹しているという不可解な性格……そんな無欲なホトケ様のような人間て、ちょっと胡散臭くないか?(笑)
いや、彼らに個性がない、というわけではない。一応、それぞれ性格付けがあり、バックボーンもきちんと設定され、確立されたキャラ像ではあるのだが、大体が素直でものわかりがよくて、行動パターンが控えめで存外「地味」であったりする人々だ。こういうキャラが好きなくせに、「出来過ぎてんだよなぁ…」とKはひそかに考えている。

まったく、次元は出来のよすぎる相棒だ。ルパンの行くところどこにでも付き合って、与えられた役割はきっちりとこなし、ポカをして失敗することもなければ、計画に外れたことをするわけでもない。もちろん、たまに裏切って主人公を慌てさせたり、自分の行動倫理に反することだとドタキャンしたりすることもない。ま、この辺りは基本的にルパンと価値観が似ているので、行動は予定調和の想定内であり、時々口論をしても、結局は主役の意思を別の角度から表現する具現者というところに落ち着くわけだ。
ルパンと次元の距離感というのは、非常に安定している。
それはまぁ、人間だから少々対立することがあったとしても、日常範囲のささいなエピソードだ。心理的な距離が開いたりすることはほとんどないので、なかなかドラマになりにくい。実際、現実世界では友達同士というのはこんなものだろうし、強烈な個性を持った人々ばかりでもないのだが、物語的な視点において、主人公の邪魔にならず、役に立ち、なおかつ「個」を主張しないキャラクターというのは、現実味の薄い存在と言わざるを得ないだろう。たとえば「わかりやすさ」を好むアメリカ人などが「ルパン」を映画化するなら、こういう微妙な関係のキャラは「不要」と思ったり、いっそ「ルパンの部下」とかに矮小化しそうだなぁ…と・思ったりする( ^ ^;)

そういう単純明快な切り捨て思考も脚本家としては必要な資質ではあるが、実は次元というのはなかなかに役に立つ男なのだ。ルパンにとってだけでなく、物語の進行役として。
実は情報通という設定のある次元は、物語の途中で説明が必要な個所では都合よく情報を入手してきたり、裏知識を披露したりする。そうかと思えば適当にお馬鹿で、ルパンの講釈を聞いて「さすがルパン」と真顔で感心している。適度に鋭く状況を察している一面もあるのに、驚くほど間が抜けていることもある。ルパンと一緒に、時に度を越したヤンチャをやらかすようなぶっとんだ性格である一方、常識的な見解でルパンを諌めたり心配したりすることもある。物語の展開に応じてさまざまな役割を振られる次元は、言っちゃあ何だが、「都合のいい存在」だろう。結果として多面的な性格となり、明快で強烈な「個性」がなかなか見えてこない。性格や存在意義の輪郭がちょっとぼやけた、どことなく曖昧模糊(あいまいもこ)とした印象のキャラになってしまうのである。
(それも主人公と別の立場の役割を担っていればミステリアスと呼ばれるだろうが、それとも違うんだな…)

それでも、だからこそ。こういうキャラクターは愛されるともいえる。
ルパンワールドにおいて、ルパンのライバルは銭形、トラブルメーカーは不二子といったように、強力なキャラが据えられている。ルパンの相棒で、性格や考え方が真反対の位置にあるのが五右衛門だろう。彼らが強烈に、物語の中でそれぞれの「個」を主張しているために、実は次元の控えめな性格というのも明快な個性として浮き上がっているような気がする。その地味さは自己を主張しすぎない美徳として愛され、ルパンワールドではあまり見られない「協調性」の象徴とも捉えられるわけだ。
銭形や五右衛門などのキャラは、ルパンとの関係や性格がはっきりしているので、登場すると物語の流れを変えてしまう。キャラを生かそうとすると変えざるを得ない。彼らを毎回主体として登場させようとすると、途端にネタに詰まってしまうかもしれない。五右衛門がルパンたちから一歩引いたような関係が多いのは、彼の個性を損わせまいとする配慮だし、銭形がいつもキレモノの名警部でいられないのは、物語の多様性の観点からいって苦肉の策といえるのだろう。
対して、次元の多面性な性質というのは、つまりニュートラルな存在でもあるだろう。どんな物語の展開でも柔軟に対応し、要所要所できちんと活躍することができる安定感を備えている。単独では事件を押し広げたりすることもない代わりに、何がどうなろうと物語の流れからドロップアウトすることがなく、事件の中心を駆け抜ける主人公の魅力を最大限に引き出す役目を果たすことができるのである。
突出して主役にする回など作らなくても、次元はテレビシリーズのほとんどの回で、いぶし銀のような活躍を見せてくれるキャラだ。Kが思うに、次元は他のキャラと絡めてこそ魅力的なのだろう。自身では大きな事件を起こさない男は、常にはソファにでも寝っ転がって安穏と暮らしていそうだ。事件に巻き込まれて初めて本来の力を発揮したり、誰かと喋り出して「個」が見えてくるような、基本的には受け身タイプの人間と言っていいのかもしれない。
そんな次元のファン傾向としては、「次元とルパンのセットで好きv」とか、「次元が好きだけど五右衛門も大好き」というような、やっぱりニュートラルなファンの方々が多いのではないかなぁ…と、思ったりしているのであったxx


 (話がどんどん逸れていくのでこの章はコレで終了)
<了>

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