ルパンの脆弱性 


どこかで「キャラ論」とまとめたいところだが、思いつくままにつれづれと。
ルパン三世というキャラクターが抱えている「闇」の部分について、そしてそこから発生する脆弱性というものを考えてみた。
改めて語るまでもなく、ルパンは表面は脳天気に見えて、非常にダークな面を持っている。いつも陽気に道化ぶっているけれど、その実、怖い人間だと思うことは多くある。裏世界に住んでいるくらいだから、当然といえば当然なのだが、すぐに銃を抜く物騒さも、命乞いする相手を殺す非情さも持っている。それは次元にしろ五右衛門にしろ同じなのだが、ルパンの冷酷さは彼らの比ではないだろう。
一見、明るくて快活で、美人を見ると早速口説きにかかるほど饒舌家のルパン。初対面の印象はとっつきにくくはなさそうだ。わがままで自己中心的で、時に子供っぽいかんしゃくを起こしたりもするが、気に入った相手のためなら損得抜きに手助けをしてやるような、人情味にあふれた一面も持っている。しかし、そうした「陽」の気質と正反対の、「負」のパワーが桁外れだ。自分に危害を加える相手などに向ける敵意は半端ではなく、容赦のかけらもない。

大体、銭形に誇りを傷つけられ、逮捕された時に、一年間牢獄に留まってぎりぎりで脱獄するという名作一つとっても、「カッコいいなぁ…」と惚れる一方で、「なんつー性格の悪さ…」ともこっそり思う。敵(この場合銭形)に自分と同様の屈辱感を与えるために、それほど時間をかけて意地悪をするなんて、よくまぁ怒りのエネルギーが持続するものだ、と感心してしまう。
この一件に留まらず、やられたら同じ方法で復讐する、という彼のやり方は、時におそろしくえげつない。陰険というか、真綿でくるんで締め付けて行くような、粘着質な仕返しを好む傾向がある。(※これでもKはルパンファンです、念のため)
これが例えば次元や五右衛門なら、傷つけられた相手に正面から戦いを挑むだろう。奴らは奴らで、ナントカの一つ覚えみたいにサシの勝負で勝てばそれでОKらしい。短時間で決着をつけることを好む、おおらかで単純で、男性的な考え方の持ち主だ。
ルパンはそうはいかない。そんな簡単な形で彼の怒りはおさまらない。誇り高きルパンは、自分(や仲間)が傷つけられると、精神的な痛手を相手に思い知らしめないと気がすまないようだ。肉体的痛みよりも、精神的な苦痛の方がルパンの怒りは大きく、そういう相手には、ひとおもいに殺してやるなんて半端な優しさは彼の中から排除されるように見える。それほどにルパンの矜持は強く、それを汚す者に絶対的な恐怖を与えずにはおかないのである。
(例を挙げればキリがないが、新ル32「ルパンは二度死ぬ」、46「ルパンお高く売ります」、62「ルパンを呼ぶ悪魔の鐘の音」、79「ルパン葬送曲」等々)

プライドの高いルパン。自他共に認める「天才」であり、他の誰も彼と同じ地平に立つことの出来ない至高の存在。類まれなる頭脳、実力、そしてカリスマ性を備えたこの男は、何にも屈せず、誰にも従わない。誰よりも抜きん出ていることを自負し、そうあり続けようとしているし、周囲もそれを認めているようだ。
現実にいたら、こういう人はおっかないと思うんですよ。「ルパン」のCDで、音楽の間に山田さんの台詞が入っているのを持っているのだけれど、女性たちのコーラスで「ルパンルパンルパン〜♪」というところで「気安く呼ぶなぃ」とルパンの台詞が入る。いつもの山田節なのだが、これを聞くたびにKは怖くてドキドキする。虫の居所の悪いルパンに声をかけたら、こんな調子で返されるのだろうと思うと、身が縮む思いがする…
本心が読めない人間は怖い。ルパンの場合、普段は脳天気で優しいのに、あれだけ冷酷な面を持っていると思うと、そのエキセントリックさに近寄りがたさを感じる。Kから見れば、ルパンは気分の読めない相手であり、時にはひやりとした畏怖の念を抱く対象でもあるのだ。
(時々ビビりつつ、でも好きなのでそばにはいたい、という感じかなぁ…)

 

さて、そんな裏の顔を持つルパンだが、本質的には孤独であろうと思う。天才肌で自信家、常に物事の先を読み、余裕と不敵な笑みを浮かべていて、本気で慌てたり追いつめられたりする部分をめったに見せない。けれども孤高の存在であるが故に、彼は孤独だ。それはもう、壮絶と言っていいほどに。
それは「ルパンv.s.複製人間」で、マモーとの最後の戦いに向かうルパンの姿に、特に感じることができる。次元ですら理解し、ついていくことが出来なかったルパンの誇り。あるいは旧ル4話で、1年という歳月をかけなければ取り戻せなかった彼の誇り。その誇り高さは、彼の孤独の象徴でもあると思う。だからこそ、彼の抱える闇は底無しに深く、常人はその縁へ近寄ることすらためらうのだろう。
原作初期?のルパンはとりわけ闇が濃い気がする。Kは原作にはあまり詳しくないのだが、銭形がルパンの素顔を見ようと、執拗に迫るシーンがあった。ルパンの拒絶は微塵の余地もなく冷徹で、しかしここまで自分を追いつめた銭形を認める言葉も口にしていた。
自分の位置まで這い上がって、同じ地平に立とうとする男に対しての率直な賞賛。それは自分を理解しようとする行為であり、ルパンの本心としてはわずかながらの喜びもあるだろう。だが、ルパンは「ルパン」の「素顔」を見ることを決して許さないのだ。それこそ、己の足元に手をかけて登ってこようとする相手を絶対的な気迫でもって叩き潰そうとする。そういう意味で、ルパンは銭形をライバルと認めつつ、生涯彼と同じ地平に立つことはないだろう。
原作設定ではルパンはルパン帝国の総帥らしいので、彼の位置付けは王者というのが近いのかもしれない。ただ、アニメ版ルパンは「王」というほど大勢の人とつるむのが好きそうではないし、凡人を束ねて面倒を見るほどの思想家であるようにも見えない。ただ、他者と同格であってはならないという点で、ルパンの孤独は支配者の孤独と近いものがあるのではないか、と感じている。

 

しかし、ルパン自身は自分のアンダーグラウンドな部分を、どう考えているのだろう。
ルパンは孤独だが、それに耐え得る頑丈な精神構造をしていると思う。常に地に足をつけ、与えられた天賦の才を軽やかに使いこなし、身に過ぎた能力と嘆くことなどしない。
季節を通じて「躁」状態のルパンは、普通人には理解できないハイテンションが「常態」らしい。まぁ見方によっては不自然な明るさ、本心を隠すために身についた保身的演技ととれなくもない。が、Kが思うに、これもルパンの本当の姿なのだろう。彼の表の性格は、自分の本性や弱さを隠すための仮面ではなく、根っからの性格によるものだと言う気がする。仮面をとったら弱音を吐くようなタイプの人間には思えない。
これはKの完全に個人的な意見ではあるし、好みによるものもあるだろう。
人は自分以外の何者でもないし、他人の心なんてわかりはしない。それを承知で言うのなら、ルパンという男は精神的にも非常にタフなのだという気がする。実はナイーブで、何かの拍子にふっと孤独感に襲われて打ち沈む…なんてカワイイ性格でもないだろうな、と思う。ルパンの「闇」は内側へ潜り込んでいくのではなく、外へ向かっていくものだ。だからこそ、彼の冷酷さはこれほどに苛烈で恐ろしい印象を与えるのだろうな…と思ったりもするのである。

もちろん、ファン心理の一つとして、ルパンの持つ闇を内側から想像するのはなかなかに楽しい。
「ルパンだって人間だから、今までたくさんの人を殺めてきたことにホントは深く傷ついているんだ」とか、「常に勝ち続けなければならない宿命を背負った悲劇の男」「己自身もそうあろうとしているが、誰にも理解されない孤独で心の底では苦しみ続けている」…とか、ね。(ルパンのみならず、次元・五右衛門でも可/笑)
こういった繊細なキャラ像は、荒っぽく纏めれば乙女な発想なのかもしれない。「強がって見せても私は弱い人間なのよ」というのは、古典的ながら、少女漫画の王道…の、ひとつだという気がする。(そして、それでこそ『妄想』なのである/爆)
(ちなみにハードボイルドも人間の弱さをテーマにしているが、こちらはよりストイック)
Kは根っからの次元スキーなのだけれど、実は次元よりもルパンに対しての理想が高い。
次元は少々お馬鹿でもキャラ設定が不明確でも許容範囲だし、たとえ勝負してルパンに負けてもそれでいいと思っている。(愛があるのでv) 
しかしルパンは、敗北なんてあり得ないとか、ルパンならこうするべきだとか、なんだかいろいろ理想があったりする。危機を脱するための奇想天外なトリックとか、最終的な勝利による爽快感とか、主役であるルパンには、何かとオプションでくっつかなければならない魅力が不可欠だ。それがなくてもルパンらしいことはあるのだが、ちょっと不満足なことはあったりする。(ルパンが選ぶ行動が、時に物語の結末に大きく関わるだけになおさら、なのだろうね)
次元が、「お前の魅力はでっかいことをやらかすところにあるんだぜ」といった台詞を口にすることがある。困った状況になると「どうするルパン?」と必ずルパンに知恵を求める。次元と言うのはそういう、主役を引き立たせるポジションにあるキャラだからそれでいいわけで、彼から見れば、ルパンはどんな時にも諦めることを知らない不屈のスーパーマンなのだ。いつも思いがけないサプライズを体験させてくれる、びっくり箱のような存在。不可能を可能にしてくれるマジシャン。次元スキーであるKは、次元に非常に近しい感情でルパンを見ている気がする。ルパンの魅力に惹かれ、心酔している。「こんなのルパンじゃない〜;>_<;」とか、「ルパンならそれくらいできるはずなのに…」とか、ちょっと違うゾ・なルパンに首を傾げたり、ひそかに不満や要望を抱いたりすることも少なくないのである。
それは「自分の理想」という枠組みに、ルパンという世紀の怪盗をムリヤリ嵌め込もうとしていると取れなくもないわけで。
まったくもって、ルパンには迷惑なことだろう。

だが、Kが次元と近い立場だとするなら、次元もやはりルパンに理想を持っているということになる。
何しろ、ルパンが不二子に甘くなることを何度も何度も何度も何度も忠告し続けている次元の言動は、「ルパンともあろう者がなんであの女にいつも騙されるんだ!」という苛立たしさからくるものだ。次元はルパンに、不二子に騙されて欲しくないのだ。ルパンが何度も同じ手に引っ掛かってしまうのが、(ルパンとしては確信犯であるにせよ)、次元には我慢がならないのだ。「自分が」ではなく、「ルパンが」不二子にしてやられることが腹が立って仕方ない辺り、次元の中には「理想のルパン像」があるのだろうなぁ、と思わずにはいられない。
そんな風に自分を偶像崇拝されることに、ルパンもタマには重くなったりするのかしら……と、思わなくもない。
まぁ、普段はルパンも、「さすがルパン」と素で賞賛の言葉を投げてくる相棒に、悪い気はしないだろう。持ち上げられるとそれなりに調子に乗るタイプだから、尊敬されるのはいい気分には違いない。けれども「ルパンなんだから」と常に期待を寄せられ続けるのは、時にしんどいこともあるんだろうか? …とふと迷うのは、K自身がルパンに理想を求めているという、ちょっとした罪悪感からくるものなんだろうか。
とはいえ、実際のところ、ルパンにそういうプレッシャーを感じている気配はない。もちろん、次元だってルパンを尊敬ばかりもしておらず、喧嘩したり叱ったり、逆にルパンがご機嫌を取ったりと、彼らの関係はほどよいバランスで成り立っているように見える。ルパンの孤独はかいまみえても、それによる脆弱性はほとんど感じられない。結局のところ、ルパンの強さは偶像崇拝されることすら構わないと言い切れるほどの、底抜けの精神的な強さにつながるものなのかもしれない。
いい意味でも悪い意味でも「いい加減」で、呆れるほどのポジティブ・シンキング。
だからこそ「ルパン」は常に軽やかに、そして底無しの暗黒面を見せながらもからりとした作品でありつづけるのだろう。

 

<了>

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